短編小説③
どうしようもない、たった一人でいる空間。光が見えなくて、五感全てが無に帰す。いつも通りの真っ暗闇。
走ってみようと思った。全力で息が切れるまで、死ぬかもしれないと思うまで、本気で走ってみようと思った。最後は壁にぶつかってめちゃくちゃ痛い思いをしてしまえ。死んでしまえ。この場所にいるよりはましだ。こんな自分以外がいない世界なんか。
途方もなく続く無駄な時間。この世界から脱出する術などあるのだろうか?脱出しなければならないのに。誰かが私に手を差し伸べて助けてくれるなら、私はその手に死に物狂いで食いついてやる。その手を犠牲にしても。自分が助かるためなら。
ジリリリリリ、ジリリリリリ
今日も朝が来た。
また学校に行かなければならない、一人でいたいのに。どうして人は規則やらルールに縛り付けたがるのか?人はそうしたいっていうのならそうさせてあげたらいいじゃないか。そうさせてくれよ。
朝ご飯はなににしよう。いつも同じで決まっているんだけど・・・。食パン一枚と目玉焼き。食パンの上に目玉焼きをのせて完成。5分で調理完了だ。
制服に袖を通し、決まりきった格好をして学校に行く。もう5年目だ。
学校へ向かう人々は足早に歩んでいた。すれ違うサラリーマン。すれ違うOL。すれ違う近所のにいちゃん。すれ違う近所のおばちゃん。すれ違う透明人間。すれ違ういつものあの子。みんな生きている。そう見える。私にはそう見える。
授業が始まる。
いつまで黒板に字を書いて授業をするのだろう。いつまで暗記などというくだらないことをして生きていくのだろうか。
人間なんて所詮、誰かのやったことを真似して生きているだけだ。自分のオリジナルとかいったって、過去にあるものを参考にしてやってみただけだ。ファッションなんてものはその典型で、あの人オシャレだねって言ったって、その人がどんな人をオシャレだと判断しているかは過去の情報をたよりに総合結果で言っているだけだ。過去にあった良いものにどれだけ自分が近づけたかどうかだ。どれだけ真似できたかどうかだ。本当に自分だけの考えでできたものなんて一つもない。誰かと同じっていうことはダメなんじゃない。なるべくしてなったものだ。
私はまた真似をして生きていく。
全てを一目見ただけで覚えれる人はまさに天才といえるだろう。ひらめきなんてものは自分が参考にしてきた全てのものから浮かんだものの一つに過ぎないから。それが多いほど成長したって思えるんだろう。
昨日本を買った。
「異性を落とすマル秘テクニック」これも所詮真似事にすぎない。全てを読破した私はこれを実践しようと思った。コンビニ店員のあの子に。恋愛ってものはほとんどが理想で、これもやはり過去のものを参考にしている。
授業が終わり、私は一人いつものようにコンビニへ向かった。夕方のコンビニは閑散としていて、私とあの子以外に客が一人だけだった。
その客は普通の人のように見えた。その人はレジへ向かうと、いやレジの向こう側に入りタバコをひとつ取りでてきた。あの子は全く気づかないようだ。その人はなにも悪い顔などせず一直線に私のほうに向かってきた。私は少したじろいだ。瞳を見透かすような目で私を見ている。怖い、すぐにここから出て行きたいとそう強く思った。
「君もだろ?」とその人は言った。
「?」
私は意味が分からなかった。
もう一度その人は私にこう問いかけた「君もこの世界から抜け出せないんだろ?」と。
私はその通りだと思ったが、それは夢の話のことだと思った。
「あなたは誰ですか?」と私がその人に尋ねると。
「私は・・・・・・・・・です。」と答えた。
よく聞こえなかった。誰なんだ?
もう意味が分からないと思い、コンビニの外へ出た。振り返るとその人は見えなくなっていた。
自分の頭がおかしくなったんだ、きっと。今日は早く寝よう。
そういえば、私の夢の話とはなんのことだったんだろう?自分で言ったのに思いだせない。今日は何をしにコンビニへ行ったのかも思い出せない。
なぜだか、またあの変わった客に会いたくなった。
夕陽が沈みカラスが鳴く。あのオレンジ色はなんてきれいなんだろう。
③終わり。
続く。
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